アイシールド21に習う興味のない読者を漫画に惹き込む賢者テクニック




週刊少年ジャンプで連載されていたスポーツ漫画のアイシールド21というものがあります。2009年に連載終了していますが、アニメ化もされているので知っている人も大勢いるとは思います。アメフトという日本ではほとんど脚光を浴びないスポーツ(最近だと日大タックルが物議ですが・・・)が大人気漫画になったのには、原作者の稲垣理一郎さんのテクニックが光る部分だったと思います。

※ネタバレ含みますのでご注意下さい

賢者という理想の作者像

漫画に限らず映画でも参考書でも、理解しやすいものでなくては読んでもらえません。何故なら理解できなければ面白みも知識もつかないからです。難しいことをそのまま伝えるのは普通の人、難しいことをさらに難しく伝える人は愚者、難しいことを簡単に伝える人は賢者、という言葉があるように漫画作者は賢者じゃないといけないのです。

アメリカンフットボールのルールを知っている人が何人いるだろうか?

アイシールド21においてすごいのはここです。アメフトなんか知らなくても楽しんで読むことができてしまう漫画。

アメフトのルールどころかスポーツ自体知らない人も大勢いたんじゃないでしょうか。サッカーとか野球は小さい頃遊ぶ人も多いため自然と何となくのルールは把握していると思います。せいぜいオフサイドって何?くらいじゃないでしょうか。その点アメフトはどういうことやるスポーツなの?レベルかなと思います。

アメリカでは大人気のスポーツですが、日本ではマイナー中のマイナースポーツと言っても過言ではないアメフトをこれほど面白く描いたのは偉大です。これには緻密に練られたストーリー展開やキャラクターの存在、そして圧倒的画力というのが非常に大きいと思ってます。

魅力的なキャラクターたちが物語を引っ張る

アイシールド21で痛感したのはやはりキャラクターの偉大さ。主人公含め泥門デビルバッツメンバーの癖が強すぎる。もちろんライバルキャラクターたちもしっかりと作り上げられていて、これだけのメンバーを個性豊かに描ききったのは感服。しかも、いい感じにキャラクターの個性とポジションを合致させていて、完璧な敵をそれぞれのメンバーが持つ1つの長所だけを武器に倒す姿にスポーツ漫画特有の熱さを感じさせます。

メンバーをピックアップして紹介していきます。こういったところもキャラクター作りの勉強になりますね。

小早川セナ:ランニングバック(ボール持って走る人)で、いじめられっ子でパシリ人生が長く勝手にランテクニックが培われていた。体格もなければ、正確もビビり、到底アメフトなんかやらない人物像ですが、唯一の足の速さだけを武器に戦っていきます。初心者ということもあり成長具合が半端ないチート級(元からだけどw)、それでも色んな挫折を味わったりと主人公していて感情移入できます。主人公に最も必要な要素である成長がドンピシャに当てはまっていて、試合ごとにその成長ぶりを見ることができます。

雷文太郎(モンタ):ワイドレシーバー(ボールキャッチする人)で、野球でキャッチ命として頑張ってきたけどノーコンすぎて部活にすら入れなかった残念な子。でもキャッチだけは一級品で、レシーバーは高身長が求められる中でちびっ子として強豪を撃破していく第2のエースとして活躍していきます。このアメフトでは1つ何かができればいいというスペシャリストを体現したようなキャラクターに仕上がっています。

栗田良寛:ライン(ボール投げる人を守る壁)の真ん中を守るチームの大黒柱で、スピードも無ければ度胸もないただのパワフルおデブちゃん。デブだ役立たずだと結構バカにされるけど、パワーだけならば誰にも負けないという個性を持っています。アメフトへの愛があふれているんですが、ここぞという時の勝負に弱く、ネガティブなキャラクターというのも、ラインというぶつかり合うワイルドなポジションといい感じにギャップがあって個人的に好きです。

ヒル魔:クォーターバック(ボール投げるチームの司令塔)で、身体能力は並以下の凡人ですが頭脳明晰なためトリックプレーを武器に相手陣営をかき乱し特典していくという、たぶんアイシールド21で一番魅力的なキャラクター。正直、ヒル魔なしでの勝利はないと言っても過言ではないくらいデビルバッツに貢献している司令塔の鑑。序盤は無駄に派手で口も悪くて、いちいち必殺技つけたり中二病患ってるなと思わせますが、頭のキレる人物なためそこにもちゃんと理由があるという、あえて中二病や派手を演じている珍しいキャラクターです。物事には裏側があると面白いものですよね。泥門の裏エースだとライバル校に言わしめるほど。

ムサシ:キッカー(ボールキックする人)で、デビルバッツ創設3人組の謎の人物として読者を焦らし、判明したら入部までこれまた焦らすという泥門デビルバッツ最後のカード。かなり堅気なキャラクターで高校生とは思えないオッサン面。ヒル魔につぐ、泥門のブレーンでみんなを締める役になってます。アメフトでキック?という読者のクエスチョンを吹き飛ばすほどの強烈なキッカーw

小結:ライン(ボールを投げる人を守る壁)で、栗田のことを師匠と敬う小柄なラインマン。「フゴ」などといったパワフル語(ムキムキな男にしか通じない言葉)を使う不思議系キャラポジション。ラインマンというと大柄でガタイが良い人がやってるイメージですが、そこにギャップとして小さい小柄キャラクターの要素を入れてきています。これには小柄なラインマンが活躍できるポイントを入れたいという作者の意図が感じられるなと思いました。

三兄弟:ライン(ボールを投げる人を護る壁)で、十文字・黒木・戸叶という不良3人組です。よくある不良から更生していくというスポーツ漫画のセオリーに乗っ取ったキャラクターで、最初はヒル魔に脅されて参加してましたが、負けず嫌いが災いしてというか幸いしてアメフトの世界にのめり込んでいき、多くのラインマンたちと戦っていきます。重要なツッコミキャラ要因でもあります。

瀧:タイトエンド(色んなポジションを担当する何でも屋)で、柔軟な体を武器にチームを支える究極のバカキャラ。アメリカ修行編で出会った最後のキャラクターで、期待が高まったのですが個人的にあまり印象に残らないキャラクターでしたw無駄に尖っててバカなのはいいんですが、それゆえに使い所に困ったんじゃないかなーと・・・。

雪光:ワイドレシーバー(ボールキャッチする人)で、スポーツしたかったけど母親に逆らえず勉強だけしてきたキャラクター。アイシールド21の活躍を見て奮い立って入部するも今まで運動してこなかったためレギュラーにずっと入れないままだった。しかし、関東最強の神龍寺ナーガ戦でデビューして活躍、ヒル魔とはまた違った硬派な頭脳プレイが得意で、王城戦のあえてタッチダウンさせるのには感動しました。個人的に一番好きなキャラクターですwかなり最初の頃から登場していますが、活躍するのが20巻あたりという焦らしっぷりがすごい。

と、メインメンバーはこんな感じですが、進・桜庭・阿含・キッドとか個性豊かな敵キャラクターも多いです。キャラクターに感情移入させることで、アメフトなんか知らなくてもしっかりと漫画を楽しめるようにしているのが、序盤を読んでいてわかります。こういった基本をしっかりとおさえた展開がやはり重要だなと納得させてくれますね。

結局は人間ドラマがメイン

アメフト漫画なのでアメフトがメインかと思えば実際はそうではないんですね。やはり、キャラクターたちが織りなす人間ドラマっていうのが1番重要であり、読んでいて知らず知らずのうちに1番面白いと感じている部分です。他のスポーツ漫画でも同じですが、メジャーなどでも茂野吾郎を取り巻く人間関係が魅力的で、その人と人を繋げているのが野球というスポーツなんです。アイシールド21でも、アメフトというスポーツを通じて描かれた人間ドラマでキャラクターを引き立たせ読者を感情移入させています。

試合ごとにアメフトの理解が深まるストーリー展開

これが本当に緻密に練られているなと感じた部分で、それぞれの試合で少しずつアメフトの世界を理解できるようなストーリー展開になっています。

序盤の試合はランニングバックやワイドレシーバーというイメージが湧きやすいものに焦点を当て、太陽スフィンクスではラインという存在を理解させ、ワイルドガンマンズではキッカーというワンポイントで活躍するポジション、スパイダーズではリードブロッカーとポジションをピックアップして試合を展開しているのが特徴です。ポセイドン戦ではラインがメインであるものの、細かいテクニックやフォーメーションなどの搦手もあったり、読者が置いてけぼりをくわないように、この試合ではコレ!というものを決められています。

個人的にはキック1つでそこまでアメフト変わらんだろうとか思ってた初心者でしたが、ワイルドガンマンズとスパイダーズ戦でたったワンポイントですら試合展開をひっくり返してしまう破壊力があることに驚きました。

アイシールド21を読み終わるころにはアメフトに興味がわき、自然とある程度の知識もついている、漫画って偉大でとっても不思議ですね。素晴らしい!

ちなみに、作者である稲垣さん、村田さん、編集者の浅田さんは、高校・大学のアメリカンフットボール部に念入りな取材を行い臨場感を出すために徹底したそうです。

わくわくする圧倒的な画力と構図

漫画にとって画力って大事ですが、スポーツ漫画やアクション漫画においては臨場感を演出するスピード感のある絵は最重要とも言えますね。僕には到底無理ですがw村田先生は下書きなしでも描けてしまうほどの画力の人で、タッチダウンのシーンは毎度興奮させられました。手に汗握る展開や躍動感あふれる構図の羅列で、よくもまぁこれだけのものをいくつも描けるなと思ってしまいましたね。序盤よりも秋大会が始まる15、6巻あたりからの絵柄が個人的に好きです。

現実にありうる要素も詰め込まれている

漫画と言えばありえないくらいの方が面白いのですが、やりすぎると次元が違いすぎてギャグになってしまう部分でもあります。個人的にテニスの王子様とかすごいところにまで登り詰めてしまった印象。

アイシールド21もありえない部分は多々ありますが、面白いと感じるちょうどいいバランスになっていると個人的に思いました。僕はアメフト知らないんですけど、知っている人からすると結構どれも当たり前のことを大げさにやってたりするみたいですねw

実はありえるというものをピックアップしてみます。

  • 小早川セナの40ヤード走4秒2ですが、実はNFLでは4秒1とかもあるそうです。まぁ高校生で4秒2はぶっ飛んでるとは思いますがw
  • ムサシの60ヤードマグナムというキックですが、NFLでは実際にそれを超えるキックがいくつか記録として残っているそうです。
  • クォーターバック2人体勢のドラゴンフライは作中にもありますが日大で実際に使われていたフォーメーションだそうです。現在は見ない伝説のフォーメーションとなっていますが、通用しなくなったのが原因みたいですね。クォーターバックの後ろに1人のランニングバックをつけて、さらにその後ろにランニングバックを2人つける走行メインのウィッシュボーンも実在します。キッドがショットガンと称して大勢のワイドレシーバーを放つフォーメーションも然り。結構多くのものが現実のアメフトで使用されていて、本当に戦略的なスポーツなんだなぁと思わされます。
  • 細かい部分だとラインテクニックのスイムやリップ、不良殺法なんかもありますね。ちなみに不良殺法をやっていいのはディフェンス時だけで、オフェンス時にやると反則となるようですが、漫画を読んでみるとやっているのはディフェンス時だけ(だったはず)なので細かいところもしっかりしているなと思いました。
  • セナのライバルであり師匠の甲斐谷陸のロデオドライブもラグビーですが実在しています。この編からネタに限界がきたかと感じましたねw

で、たぶんありえないのが一休の後ろ走りの40ヤード4秒9というアレw普通に走ったら絶対最速だろと思いましたが、きっと特化しすぎたんじゃないかな?と思っておきましょう。まぁ、このへんは漫画ならではの面白い部分でしょう。

最後に個人的な残念な部分の感想を・・・

漫画作りにおけるまったく知らない人に対して理解させるというタイトルから少し外れますが、アイシールド21を読んでいた感想をちょこっと・・・。

長期連載の宿命とも言うべきでしょうか、やはり後半はどうしても失速気味というかネタ切れ感ハンパないです。秋大会を徐々に徐々に興奮度を上げてきて個人的なピークが神龍寺ナーガ戦で、王城戦もそれに及ばずとも楽しめました。が、クリスマスボウルを賭けた戦いのダークホースの白秋ダイナソーズが、ただの力ゴリ押しという・・・まぁアメフトの原点が最強だとか言われたら、間違いないんでしょうけど、熱的には微妙でした。そして帝国学園の微妙さよ・・・。からの、謎の世界大会・・・w

どうも、ぷ~ちんです。

まったくアメフトを知らない人の多くが楽しめた漫画ですが、それにはしっかりと裏打ちされた理由があるということですね。とんでもなくルールが多いアメフトですが、それを何も知らない人でも楽しめるエンターテイメントにしたのは偉業だと思います。漫画で大事なのは、知らなくても面白いが大事ですね!いや、面白ければ何でもいいのかw




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